建築専門書から考えるベトナムのこれから

ベトナムで書店に行って感じるのは、建築専門書である歴史書や評論、技術書がかなり少ないこと。外国語からベトナム語に翻訳された書籍も大変少ないです。私が目にしたベトナム語訳で出版された建築専門書は、これまでノイフェルトだけです(ほかにもあればぜひ教えてほしいです。)。フランスへの留学者や移住者が多いベトナム。日本では、よく参照にされるような、ル・コルビュジエの『建築をめざして』や『ル・モデュロール』なども、ベトナム語の翻訳書はまだないようです。

今、ベトナムではビジネス書は、さかんに翻訳が進んでいて売れ行きも良さそうです。また日本の漫画や小説も多く翻訳されています。書籍を読むという行為が一般化している今、建築専門書が出版されたり、翻訳されることは、ベトナム建築界の明日につながるように思っています。

ですから、海外で建築を勉強してきたベトナム人に会うたびに、本を書いたり、良書を翻訳してベトナムに紹介してはどうか、と提案しています。みなさんの周りにもいれば、ぜひ勧めてみてください。

日本の建築専門書はどう増えてきたのか

ル・コルビュジエが『エスプリ・ヌーヴォー』誌などの記事をまとめ、『Vers une architecture』を発表したのが1923年。英語版『Towards an Architecture』として翻訳出版されたのが1927年。おくれて日本語版『建築をめざして』の出版が1967年。吉阪隆正が1952 年にフランスから帰国してから15年後、戦後22年後のことです。ちなみに、1967年は白井晟一が代表作、親和銀行本店を完成させた年だそうです。

面白かったのでほかの言語でも調べてみました。

1923年 フランス語『Vers une architecture』(原著)
1927年 英語『Towards an Architecture』(訳者:John Goodman)
1939年 スペイン語『HACIA UNA ARQUITECTURA』(訳者:不明)
1967年 日本語『建築をめざして』(訳者:吉阪隆正)
1973年 イタリア語『Verso una architettura』(訳者:Pierluigi Cerri と Pierluigi Nicolin)
中国語:発見できず。
ベトナム語:発見できず
*検索で簡単に調べたものです。間違っていればご指摘ください。

同じくル・コルビュジエによる『輝く都市』(1946年フランス語版)は坂倉準三の訳で、こちらのほうが翻訳は早く1956年の出版。

その他の大学で私が使っていた教科書などを見てみると、太田 博太郎『日本建築史序説』が1947年。森田慶一『西洋建築史概説』が1978年。内田祥三、深尾精一(わが先生)ほかによる『建築構法』が1981年。

結構最近の本が多い(といっても私が生まれたころなんですが)。それ以前の人たちがどういった本を教科書に学んでいたのかはわかりません。参考までに、建築系の誰もが知っている建築専門雑誌『新建築』がうまれたのが1925年です。

そろそろベトナムの番

日本では戦後、30年くらいの間に陸続といまあるすばらしい書籍たちがうまれてきました。一方、ベトナム戦争のあと、中越戦争が終わったのが1979年。それから30年たちました。ベトナムでもすばらしい書籍たちがそろそろ生まれはじめてもよい時期ではないでしょうか。

書籍からはさまざまなことを学べます。私自身も、建築に関するモラル、歴史、問題へのアプローチの仕方、技術、人間について、など数多くの示唆を本からもらいました。建築家がこれまでにどう挑戦し、何を残してきたのか。そういうことを共有することで、自分自身がどうあるべきか、ベトナムらしい建築、気候に適した建物とはどんなものか、といった問いを深化させていくことができます。

ベトナム社会がよりよい方向に発展するために、その重要な部分を担う建築にたずさわる人たちが、多くの知見を蓄え、お互いに参照することができればよいと思っています。

  • この記事を書いた人

丹羽隆志

建築家【経歴】東京都立大学&大学院(深尾精一研究室) ▶︎ 岡部憲明アーキテクチャーネットワーク ▶︎ VTNアーキテクツ パートナー ▶︎ 2018年4月にハノイで独立 ▶︎ 2020年サイゴン川歩道橋コンペで優勝 ▶︎ 妻・子ども3人 ● 一級建築士/ベトナム政府公認建築家/日越大学客員研究員 ● 石川県出身