人生にスパイスを与える公共建築のあり方

ハノイ・オペラ座

谷口:現代アートを、もっと日常的に多くの人に楽しんでもらいたい。駅前にあれば、「ちょっと立ち寄ってみようか」とか、「買い物の帰りに寄って、コーヒーを飲んでいこう」とか、そういう美術館になるのじゃないか、と考えておられました。p9,『エスキスシリーズ④谷口吉生「丸亀市猪熊玄一郎現代美術館・図書館」』, 古谷誠章編著, 彰国社, 2001年

丸亀の現代美術館を設計されていた谷口吉生さんが現代画家の猪熊玄一郎さんに言われた言葉だそうです。

駅前の公共建築

何かと敷居をつくってしまいそうな現代アートという世界への門戸を幅広い人に開こうとすることは、「公共」と冠する施設をつくる際に必要な考え方だと共感。思い返して見れば、僕自身も東京都立大学に在学中に取り組んだ卒業設計において、故郷の金沢駅前に現代美術館、図書館、カフェの複合施設を提案したのも、旅行中に訪れたこの丸亀の美術館・図書館のありかたに大きな影響をうけていたからでしょう。

金沢駅前に現代美術館を

金沢駅前は、当時はまだ金沢フォルテもなく、ホテルの乱立するだけの駅前で時に2時間近くにもなる乗り継ぎの時間をつぶせるのは百番街だけでした。

そこで石川高専に通っていたころの僕のために、都立大学で学んでいた僕は、駅西駐車場をたたずむ場所に変えることを提案しました。プログラムはまだまだ練れたように思いますが、半地下のサンクンガーデンを囲んで配置した図書館、美術館、カフェの3種類の施設の関係性は、十分な公共性がつくれているように感じます。都市のノード(結節点)に、人々の人生にスパイスを与える場所をつくる。それが公共建築のあり方のひとつかもしれません。

ハノイ・オペラ座のポテンシャル

そういうスパイスという意味でハノイの町並みを見てみると、ハノイのビスタにおかれたオペラ座は、街に文化的香りを与えるものとして貴重な役割をになっています。

この特徴的な場所をより生かすために、広大な5差路と化しているオペラ座の前にもう少し場所が与えられていてほしい。そうすれば広場的な雰囲気が強まり、オペラ座の階段に人がたたずみ、見る見られる関係をもった貴重な公共空間として、さらに人々に近い、意味深いものになると思います。