作庭家・重森三玲という巨人

カットバ島近郊の島で計画中のホテル付属のレストランのスケッチがなかなか進まないので、ハノイのクリエイター仲間である源明しのぶさんよりいただいた重森三玲のカタログで頭をリラックスさせる。

幅広い活動の結実としての作庭

このカタログは、彼女が2006年に汐留の松下電工ミュージアム(現パナソニック汐留ミュージアム)で担当した「重森三玲の庭-地上の小宇宙」展のもの。掲載されている写真は三玲のお孫さんにあたる重森千青さんと一緒に写真を撮ってまわられたものだという。当時のエピソードや庭についての話をききたいと、「ハノイ庭会」をしようと言って早半年がたってしまった、と思いながら誌面に没頭する。

代表作を横断した写真とともに多く掲載された図面が庭の巨人の思考についてのヒントを与えてくれる。三玲と聞いて思い出す東福寺本坊をめぐる4つの方丈の庭が、彼の庭園デザインの初期のものであること。それ以前に全26冊の「日本庭園史図鑑」を上梓していること。日本画を専攻し前衛いけばな運動に深く関与し、作庭は独学であること、など一作庭家以上のおくゆきをもった三玲像に驚く。

純粋に高い目標と空間経験値

「永遠のモダン」。自身の作庭の中で終生の目標であったという。庭園を飛び出して画、茶、花といった幅広い見識の中から美をとらえた三玲の庭には、力強い作家性がある。わたしたちが普段とりくんでいる構造のある建築に対して、一見はかなそうに思える庭園を長年しっかりとデザインされたものとしてつなぎとめるデザイン力は、数多くの本物に出会った蓄積からうまれたものであるだろうし、多くの基礎調査にはぐくまれたものでもあろう。

百聞は一見にしかず。しかも、実測まで行っているのだから、その成果は意識するともしないとも限らず発揮できたに違いない。ベトナムにいて思うのは見本になる建物の少なさ。経験にまさる糧はない。学生時代、先輩には「5つ星ホテルに泊まったことがないと5つ星ホテルは設計できない」といわれたし、「みたことのないものはつくれない」ともどこかでも読んだことがある。日本に行ったことのない人に、紅葉の美しさ、ソメイヨシノの風景をいくら語っても伝わらないように、よい建物とは、よい空間とはいったいなんぞや、というのは経験するしかない。

思えば、日本はいたるところ街中から建物内まで、蓄積された重厚なシークエンスが驚きや楽しみをもたらしてくれる稀有な国で、そんなところで育ったなんという幸運。かたやベトナムでの空間経験値をあげる場所というのはどこか考えてみると、無理繰り作られた都市住宅よりも、ハロン湾やニンビンの景勝地、限られた素材と急峻な地形を生かして作られた少数民族の住宅などが多くのアイデアをもたらしてくれるように思う。

そう思いながら、三玲のデザインの大胆さにため息をつき、自分の伸び代の大きさを感じながら、孤島のレストランの計画の思案にもどる。

  • この記事を書いた人

丹羽隆志

建築家【経歴】東京都立大学&大学院(深尾精一研究室) ▶︎ 岡部憲明アーキテクチャーネットワーク ▶︎ VTNアーキテクツ パートナー ▶︎ 2018年4月にハノイで独立 ▶︎ 2020年サイゴン川歩道橋コンペで優勝 ▶︎ 妻・子ども3人 ● 一級建築士/ベトナム政府公認建築家/日越大学客員研究員 ● 石川県出身